考え事の散歩

 考え事をするとき、散歩をすると良い、というのはいろいろな人から聞く話だし、わたし自身実践することもある。たしかに、机に向かって・本に向かって・パソコンやノートに向かって考えているときよりも、散歩をしているときにポンと良いアイディアが浮かぶことはある気がするし、なにしろ散歩は気持ち良いから取り入れている。わたしとしては、トイレやお風呂、サウナも同じくらい、アイディアが浮かぶ場所だけれど。

 外に出ているとき、しかも歩いているときにアイディアが浮かぶと、足取りも軽くなるし、ずっと頭を悩ませていたことに解決の糸口が見つかった気がするから、上機嫌になれる。そうやって上機嫌になって、コンビニでジュースなんか買って家に帰ると忘れてしまうーーということも、残念ながら起きる。どう頑張っても、思い出せないのが悲しい。

 散歩中に良いアイディアを思いついたとき、どうすれば良いのか。スマホの録音機能をつかい、とにかく喋るだとか、メモ帳機能でキーワードだけでも書くとか、やり方はいろいろ。それをやれば良いのに、面倒臭がってやらないから、忘れてしまうのだ。

 

 昔、文化人類学の調査でフィールドワークをしていた頃、何の気なしに移動している途中で現地の人と会い、世間話が始まったと思ったら研究内容にバッチリ合う話が始まってしまい、うろたえたことがあった。当時は、今ほど記憶力に自信もなかった。それに、ただ道を歩いていただけだったので、ノートはリュックの奥底。まさか世間話中に「ちょっと待ってください、ノート出すから」なんて言えず、とにかく一生懸命覚えようとしながら話し、その人が去ったあと、ポケットに入っていたボールペンを取り出し、ノートをリュックから取り出す暇も惜しんで腕にノートを書いた。一瞬でも気を抜けば、会話の内容を忘れてしまう。それが怖くて、とにかく必死に腕にノートをとり、書き終わってからデジカメで腕の写真を撮った。真夏の、暑い一日だった。写真を撮れなかったら、汗で流れてしまっていただろう。

 あるとき、大学で銭湯の中のコミュニティについてフィールドワークをし、レポートを書くという課題が出された。あのときも困った。まさか風呂場にノートを持ち込んでも濡れてしまうし、そもそも持ち込んだら叱られそうだ。風呂場での行動を知らない小娘に見られ、それをノートされているというのは、いくら同性でも嫌だろう。

 ノートをその場で取れないとき、どうするか。答えは、「覚えるしかない」のかもしれない。以前、りんごの種類を覚える、と宣言したが、それの進捗はほぼ無し。一覧を覚えるのは苦手だ・・・。一方で、誰かの会話など、流れのあるものを覚えるのは得意なようで、今なら数時間のインタビューはかなりの精度で覚えていられるようになった。といっても、かなりの予備知識や予習を踏まえた上でのインタビューに限られるし、一晩寝てしまうと大体忘れてしまうから、その日寝るまでにノートを取らないといけないけれど。

 このブログのネタも、買い物をしながらとか、風呂に入りながら、自転車に乗りながら考えることが多い。あらかじめある程度の予習ができるインタビューはともかく、ネタなどの瞬発的なアイディアをどう記憶に保存するか。それは、さらなる研究が必要そうだ。