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スベらない話

エッセイ

 普段文章を書いていて、あるいは人に話していて、なかなか一つのエピソードを自信もって「これはスベらない話だ」と言えるものはない。でも、今日のは実際、スベらない話だと言いたい。

 おとといの夜から北海道に来ているのは書いた通りだけれど、今日は小樽に行き海鮮丼を食べ、そのあとは最近開いたばかりというスキー場へ行きスノーボードをする予定だった。もともとそういう予定だったというわけではない。というよりは、夫のご家族に会うという以外、特に予定はいれていなかった。それで昨日、義理の両親と、北海道に来たなら何をするとよいか、という話になった中で、スキー場行ってみたら?という話になり、そのままノリノリ大騒ぎで、スキーウェア一式をお借りし、車も借りて、大いに張り切っていたのだ。私は高所恐怖症というわけではないが、「スピード」や「加速」が怖いタチで、ジェットコースターが怖いだけでなく、一般道から高速道路に入るときにアクセルをグッと踏むのも怖い。大学一年生の時、サークルの仲間と生まれて初めてスキーに行き、第一滑走で転び足を捻挫して断念したせいもあり、スキーやスノーボードは「やってみたい、やりたい」という思いと同時に「怖い」という思いが強かった。だから、ワンコインで初心者レッスンが受けられるスキー場に行けば良いよ、ということになっていた。

 それで今朝のこと。朝早くから持ってきていたノートパソコンのキーボードが動かなくなったなどのハプニングも乗り越え、車に乗っていざ小樽。つるつるに凍った道も乗り越え、三角市場の滝波食堂で海鮮丼を食べてきた。外の寒さも忘れるくらいのおいしさ。少し前まで「冬が寒すぎて北海道住める気がしない!」なんて言っていたのに、「北海道、いいね~」と言いたくなるありさま。

 満腹になり、また車にのって、ワンコインのレッスンも受けられるスキー場へ。雪が積もった急斜面を車で上り、スキー場についた。ジャクジャクと雪の上を歩いて、まずはボードなどを借りに建物の中へ・・・入ってから、わかった。ワンコインのレッスンは、12月からだった。調べが、足りなかったのだ。それに、雪の上を歩く擬音語が「ジャクジャク」というように、雪は硬く、夫曰く「良い雪じゃないね」ということだった。

 もう、車を降りたときから二人ともスキーのウェアも着込んでいる。自分たちは、スキー場に到着している。もちろん挑戦する気満々。格好良く滑れるようになっている自分の姿も、妄想上では出来上がっていて、ああ、一時間後は余裕で雪山を楽しんでいるんだろうなあという期待感マックス。

 でも、恐怖心いっぱいの初心者が、スクールを受けることなく滑れるようなコンディションでは、なかった。

 「やめておこっか。」夫が言ってくれた。夫のご両親も、おばあちゃまもお騒がせして、一式いろいろ借りて、実際スキー場までやってきて、これで音を上げたくない!という思いも、現実を考えたら、しょぼしょぼと消えてしまった。「うん、帰ろ。」トイレだけ借りて、スキー場を後にした。

 せっかくなので、ゲレンデをバックに、ばっちりスキーウェアを着込んだ夫と二人でツーショットの写真だけ撮った。写真だけ見たら、いかにも「滑ってきました!」という感じになった。

 写真を撮って、二人でおずおずと車に戻る。悔しいというより、いっそ笑えてしまった。「もう、これはブログに書くしかないね」「タイトルは『スベらない話』だね」「本当は『滑れなかった話』だけどね」そんな風に話しながら、車でウェアを脱いだ。車とスキー場の往復の間だけだったけれど、ウェアはわたしたちを温めてくれた。

 後ろのゲレンデからは、「ジャーーーー」という、滑っている人が雪をかき分ける音が聞こえていた。いかにも、硬い雪の音らしかった。お義父さんとお義母さんに、何て言おう。滑らずすごすご帰ってきちゃったというのはいかにも恥ずかしいけれど、この話で笑ってもらえたら、それで十分かもしれない。