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豆追う犬

エッセイ 季節 思い出

 節分だ。こよみの上で何かしらの区切りの日なら、それにちなんだ気の利いたことを書きたかったが、あいにく、あまり節分にちなんだことはあまり思い浮かばなかった。でも、豆まきで言えば、以前実家で飼っていたやんちゃなダックスフントが、毎年豆まきをすると後ろをついてきてわたしが撒く豆を次々食べてしまったことを思い出す。食べすぎになっちゃうから、思い切り撒くのを躊躇した。

 ウチのダックスは、飼い始めた当時まだ小学生だったわたしよりも、明らかに上の立場についた。自宅の中を一歩歩くたびに、ズボンの裾を噛み、しがみついた。おかげで、何本のズボンに歯の跡の穴が開いたかわからない。犬と飼い主の、言葉では言い表せないような強い絆という、"憧れ"の関係は作れず、いつもライバル関係だったように思う。それでも、可愛い妹分だった。

 豆まきの炒り豆を次々食べてしまったように、けっこう食いしん坊だった。というより、ニンゲンが食べるものを欲しがった。ちょっと目を話せば、テーブルの上の食べ物に手を(口を)出そうとする。ついうっかり食事中に何かをこぼしてしまえば、たちどころに食べられてしまった。食卓に食べ物が並ぶと、ちょっとした緊張感が生まれた。時々おやつに鶏のささみの茹でたのなんかをひとかけあげれば、尻尾が取れるかと思うくらい喜んだ。

 いま実家にはフクロウが一羽いるけれど、フクロウと人間との関係性というのは、犬とのそれとまた違う。犬とも"憧れ"の関係を作れなかったわたしだけれども、フクロウとも、複雑な関係にある。フクロウと母の関係は良好だ。でも、わたしは、時々家に現れる侵入者。ダックスのように裾を噛んだりはしないけれど、頭は蹴っ飛ばしてくる。いい加減、生き物と仲良くなることについては、自信がなくなりそうだ。ダックスにささみをあげたら喜んでもらえたように、フクロウにもおやつをあげて距離を縮めたい気がするが、フクロウはおやつも食べない。餌のウズラ肉は一日一度から二度食べるが、それ以外は特にない。それどころか、食卓にご馳走を並べても、見向きもしない。それどころか、席に着いたわたしの後頭部だけを狙う。そうでなければ、とにかく食卓のこともわたしのことも、全く目に入らないようだ。寝ていたり、外の景色を楽しんだり、ひたすらにマイペース。そして、間食をしない、高潔な生き物なのだ。わたしも、見習いたい(と思いながら、今もおやつをつまんでいる)。

 今年は(今年も)豆も買わなかったし、恵方巻きも無し。イワシも買ってない。でも、「今日は豆まきの日だな」と思うことが、飼ってたダックスのことを思い出させて、こういうこよみ上の日も良いものだな、と嬉しい気持ちになった。