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住所印

エッセイ

 近くの商店街に、昔からあるような印鑑屋さんがある。既製品も売っているし、なくても注文すれば、店主のオジサンが印鑑を掘ってくれるようだ。店の看板の文字は印鑑屋さんらしく、篆書体(「てんしょたい」というこの言葉は今日調べて改めて知った)。ゴム印とかも売っているようだけれど、とにかく、格好良いお店だ。

 そこの入り口に、こんなポスターが貼ってある。

心安らぐ住所印

 この文句の横に、サンプルとして住所印を大きく写したのが載っている。使われている名前は、徳川家康。名前の横に、住所がある。この住所印が、「心安らぐ」らしい。

 企業に送る郵便物などには、個人情報が見られないようにシールを貼ることもあるし、何しろ、神社の絵馬にすら個人情報保護シールを貼るようになったところまであるらしい。(情報を隠してしまうことで神様に願いが届かなくなるのではないか、という議論が巻き起こったそうだ)そういう時代に、住所と名前がバッチリ入った住所印が「心安らぐ」というのは、少し不思議な気もする。

 わざわざ個人情報をスタンプするための住所印と思うと、心おだやかじゃないが、パソコンで印刷した文字を多用する時代だからこそ、という視点に立つと、確かに、ちょっと素敵かもしれない。いかにも何枚もいっぺんに印刷しました、という感じにもならないし、かといって住所印を押すくらいなら、手書きよりも手軽だ。ちょっとした温かみもあるのかもしれない。そもそも、emailやLINEといった、デジタルでのやりとりが多い中、「住所印を押す」ということ自体に良さがあるのかも。賃貸暮らしのわたしには、まだまだ縁のないアイテムだけれども。