フラミンゴと狼少年

 せっかく年間パスポートを買ったので、上野動物園へ行ってきた。四回行くだけでモトが取れるという嬉しい価格の上野動物園年パス、良いペースで活用できている。

 前回はパンダが見られなかったのだけれども、今日はパンダは二頭とも元気一杯。一頭はもりもりと笹を食べていた。「パンダは笹を食べる」というのは知っていたけれども、食べるのは葉とか、せいぜい枝の細いところだろうと思っていたら、剣道の竹刀に使いそうな結構太いところまで両手で持ってもしゃもしゃかじっていて驚いた。近くの岩に背を持たれて、お腹の上にたくさんこぼしながら太い笹の幹(幹という言い方をするのだろうか?)を食べるパンダの姿は、中にお行儀の悪いお坊ちゃんが入っているようだった。もう一頭は、とてもアグレッシブ。水浴びをして大はしゃぎをした後、木登り。ほんの少し登るとかでなく、幹をみるみる登り、枝を渡り、見る人々は歓声をあげた。エンターテイナーだった。

 

 フラミンゴ舎のところも、人だかりになっていた。フラミンゴの美しいピンクが目に眩しい。水かきを持つ細い脚で立って、体はラグビーボールのような楕円形で、そこからまた細長い首が伸び、頭に対して大きいくちばし。そのフォルムは、同じ鳥類のはずのフクロウとは大違いだ。フラミンゴは野生でも塩湖の水辺で藻などを食べて過ごすらしく、フラミンゴ舎でも水辺は大きい。そこで水を飛び散らせながら水浴びをするフラミンゴを眺める少年二人組が、なんとも高いテンション。わあわあと叫ぶ。

 次第にテンションが変な方向に上がりすぎて、様子が変わる。

「わあー、逃げろー!」

「とにかく逃げてー!」

「おばけが来るから、隠れてー!」

「逃げろー!」

「おばけがくるぞー!」

 こんな少年達の忠告も虚しく、フラミンゴ達は相変わらず優雅に、水浴びをしたり、日に当たって気持ちよさそうに昼寝したりしている。動物園に暮らす生き物達は、こういう少年たちの賑やかな声には慣れっこなのだろうか。フラミンゴを眺める人間の大人達も、だあれも逃げたり隠れたりなんてしない。見事に、誰にも忠告を聞いてもらえない狼少年になっていた。それでも、少年たちは、楽しそうだ。わあわあと盛り上がっている。

 少年たちの想像の中で、どのような場面設定になっていたのだろう。フラミンゴとおばけ。その組み合わせはなんとも似つかわしくない。コウモリなどの生き物が見られる、暗い通路ではない。陽の光がさんさんと照り、ピンクの羽が見事に輝くフラミンゴ舎なのである。そこに、おばけは、どう現れたのだろう。どんなおばけを、想像していたのだろう。フラミンゴ舎で広がる、おばけの物語。少年たちの想像力の豊かさに、なんだか励まされる思いだった。